ヨウムのアレックス;鳥の言語能力

ヨウム(大型のインコ)のAlexについての動画をたまたま見ました。驚きました。
ことばを理解するヨウムの話は、以前、言語獲得か何かの本で見たことがある程度でしたが、これほどの能力があったとは知りませんでした。
日本語での紹介




実際に話している動画がこれです。




「アレックスと私」という本を買って早速読みました。著者はAlexを訓練したIrene Pepperbergさん。 内容を読むと驚きです。
算数もできたし、「ゼロ」の概念も自分で見つけたそうです("none"と表現)。形容詞と名詞を組み合わせて"Green key", "Blue box"などと言えたし、動画の中でも見られるように"wanna go back"や"wanna water", "You be good"、"I love you"なども言えました。怒った先生をなだめるために"I'm sorry"と言ったり、ほかにも周囲の人たちが言っているのを見聞きしておぼえたことば「ちゃんと言って」「この七面鳥!」などを、適時に発したそうです。

以前から、チンパンジーなど、霊長類が手話やキーボードを使ってことばを使うことは知られていましたが、まさか鳥にそのような能力があるとは考えられていなかったことです。鳥は、これまで思われていたような「機械仕掛け」のような動物ではないんですね。

当然と言えば当然で、集団生活をする動物は、仲間同士でコミュニケーションをとる方法が必要で、何かによってそれが行われているはず。つまり、脳にはその機能があって、その機能が発達したものが人間の持つ「言語の機能」なのでしょう。(中心となるのがブローカー野と呼ばれる部分だと思います)。

Irineさんは「モデル/ライバル法」という訓練方法でことばを教えたそうです。二人の人間(教わる側と教える側)のやりとりをAlexに見せました。ものを見せてその名が言えると褒めて、間違うと叱る。それを見てAlexはことばをおぼえていったのです。
夜、ほかに誰もいない部屋で、その日に習ったことの復習をしたり、発音の練習をしたり、ひとりごとを言ったりしていたことも紹介されています。

文字もいくつか認識できたそうです。sの文字やshなどを見せて、単語が複数の音素から成り立っていることを理解できるか試していたときのこと、自ら、「ナッツをちょうだい」を強調して一音づつ、「n・u・t」と言ったというのですから、驚きです。

後輩のヨウムとのかけあい漫才のような会話もしたり、自ら後輩のヨウムに問題を出したり、ダメ出しをしたり。先生と口論したり。信じられないような出来事がたくさん書かれていました。

Alexは鳥らしいところもあって、お気に入りの研究生に向かって、求愛ダンスをしたエピソードもありました。

この動画には、実際の訓練の画像も含まれています。




大事なところのひとつは、Alexは他の人のやりとりを見ながら学習をしたというところ。当たり前のことですが、カゴの中の一羽の鳥では、ことばをおぼえることはできません。一人でビデオを見続けることでも、言語はおぼえることはできないでしょう。必要性や使う状況が必要だと思います。学習者は、カゴの中にいてはいけないのです。

夜のひとりごと。Alexはその必要性を知っていたのですね。人間の心理学でいう「リハーサル」という行動ですね。学習は教室の中だけでは成り立ちません。それと同じことです。

なにより印象深いのは、
私たちが考えるよりずっと、動物たちの知性が高いということ。以前、BBC地球伝説か何かのテレビ番組で、カラスの親子の会話(「あの人間は危ないよ」と知らせる)のを見ました。
集団行動する動物が、仲間に危険を知らせる「コール」や「サイン」といった行動が言語の起源だと思われていますが、もっともっといろいろな動物が個体の間で、(言語以外の)何かの手段で「会話」をしているのだと思います。以前、「言語の歴史;うなずきと微笑み」で書いたように、「ミツバチの8の字ダンス」などがそうですね。

動物の機能というのは、進化する前の何かの機能が高機能化(スキル化)したものであって、新たな機能が追加されるものではないようです。例えば哺乳類の肺は魚の浮き袋に相当し(相同関係にあって)それがスキル化したものだそうです。つまり、たとえば、人間の腕は鳥の翼と相同関係があるので、天使のように羽根と腕の両方を持つことは、動物学的にはないということです。ですから、ヒトというか、言語を理解するチンパンジーを含めて、霊長類に突如として「言語能力」が生まれたわけではなくて、もともとあった何かの機能がスキル化したものが言語機能だということです。(参考;「言語の発生と進化および多様性」西光義弘 神戸言語学論叢)

昆虫も、ダンスや匂いでコミュニケーションをとるし、鳥の求愛ダンスもコミュニケーション手段として知られています。生殖も含めて、種として生き残るための大切な手段です。昆虫でも、言語の素地はあるように思えます。

Alexが「I'm sorry.」と言ったのは、誰に教わったわけでもなく、人間たちが言っているのを見て聞いておぼえたわけで、sorryの「意識」があったかどうかは分かりません。「怒りを抑える呪文か合図」のようにとらえた可能性もあります。でも、「怒りを抑えたい」という「意識」「気持ち」はあったわけで、「こころ」があって、ほんとうに知性的なわけです。

ほかの動物にも言語の能力があると考えれば、地球上で人間だけが特別な存在なのではないということを実感できます。人間は、自然を支配するものではなく、自然の一部なのです。

進化論を唱えたダーウィンのことばに、こういうのがあります:
「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。生き残ることができるのは、変化できるものである。」
"It isn't the strongest of the species that survive, nor the most intelligent but the ones most responsive to change."

動物は長い歴史の中で、新しい環境に適応することで生き残ってきました。自身を変化させて適応してきたのです。もちろん人類もそうです。
でも、今、人間が変えようとしているのは自分自身ではなくて、小さく狭い自分の環境です。例えば部屋の温度を調節して、快適に暮らしていこうとしています。その結果変えてしまっているのは、"The environment"、すなわち地球の環境の方なのです。

「アレックスと私」の中に書かれていることが、このインタビューの中で語られています。本を読んだ後、視聴してみると、聴き取りの練習にもなると思います。聴きたいという気持ちが、聴きとり能力を上げますから。




ところで、日本にも、面白いのがいますよ。あべちゃんです:



きっと飼い主の反応を見ながら、反応のよさそうな文章を発しているのでしょうね。

書籍のリンクをつけますが、中古しか入手できません。


言語の歴史を知るための書籍
読んで面白かった本です:
言葉は身振りから進化した―進化心理学が探る言語の起源 (シリーズ認知と文化 7)
言葉を使うサル―言語の起源と進化
ことばの起源―猿の毛づくろい、人のゴシップ
手に入りにくいかも知れませんが、図書館にはあるかも知れません。

すずきひろし

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